大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(オ)34号 判決

上告人(被告) 岡山県選挙管理委員会

被上告人(原告) 藤田岩亀

一、主  文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

二、理  由

上告理由第一点について。

本件訴状に被告の表示として

岡山県上伊福岡山県庁内岡山県選挙管理委員会

被告委員長 武居魁助

との記載があることは論旨の指摘するとおりであり、本件訴は一見岡山県選挙管理委員会委員長たる武居魁助を被告として提起されたかの如き感がないではない。しかし訴状全般の内容によれば本件訴は前示選挙管理委員会が本件選挙に関する訴願につきなした裁決を不服とし、右委員会を相手方として提起された当選無効の訴であり、そして右委員長武居魁助なる記載は該委員会の代表者としての表示にすぎないものであることが了解できるのである。このことは、記録上顕著であるように、右と同様の見地に立つて原審が委員会を被告として取り扱つたことに対し原告はもちろん委員会(上告人)もまた異議なく訴訟を遂行し来つたことに徴しても明らかなのである。されば原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由なきものである。

同第二点について。

原判決主文第一項に「被告が昭和二二年八月八日なした裁決はこれを取消す」との記載あることは論旨の指摘するとおりである。しかし右主文第一項の趣旨が「昭和二二年八月八日本件選挙に関する訴願に対し上告人(被告)がなした裁決を取消す、」意であることは、原判決の事実摘示及び理由説示の記載を斟酌すれば、容易に理解することができる。されば原判決に所論のような違法はなく論旨は採用に値しない。

同第三点について。

原審は本件係争の四票のうち、所論第一票(乙第一号証の一)については『二字のうち下の字は「一」と明瞭に読むことができるが上の字は拙い「ワ」の字型の略中央に右上方から斜に左下方にかけて相当長い墨痕があつてその色も濃く、従つてこれを誤つて附着した墨痕又は投票紙を折疊んだ際にかすれて附着した汚点とは認められない。そして文字型全体を考察すると不鮮明で通常人には文字として判読できない』と認定し、所論第二票(同号の二)については『六字のうち上から三字は「ホリイ」と判読されるが四字目は文字大の墨点であつて如何なる文字なるや全く判読し難い、そして六字目は「一」とはつきり読めるが五字目の文字もまた頗る不明瞭で通常人には判読し難い』と認定し、所論第三票(同号証の三)については、『二字のうち上の字は文字として判読し難いのみならず、下の字は三本横線が並行して引いてあつて堀井和市の「市」とは判読し難い』と認定し、所論第四票(同号証の四)については『二字のうち下の字は墨汁がうすく滲んでいるがこれは強いて「一」と読まれないことはない。しかし上の字は周囲に墨汁が滲んでいる以外に三、四の墨痕があつて文字頗る不鮮明で通常人では文字として判読し難い』と認定している。そして、この原判決の事実認定は前示乙第一号証の一乃至四に照らし、これを肯認するに難くないのである。原審は右係争四票の文字が前示の如く不鮮明の程度甚しく文字として通常人の判読し得ないものであること、及び本件選挙の候補者中に堀井和市の外に堀井久一がおること等諸般の事情を綜合して、該四票は堀井和市の有効投票とは認め難く候補者の何人を記載したかを確認し難いものに該当すると判示したのである。右判旨は首肯し得るのであり、原判決には所論のような違法はなく論旨は採用に値しない。

よつて民訴四〇一条九五条八九条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判官 岩松三郎 沢田竹治郎 真野毅 斉藤悠輔)

上告代理人軸原憲一の上告理由

第一点 地方自治法第六六条第四項の規定に依つて都道府県の選挙管理委員会の裁決に不服のある者が出訴するには都道府県選挙管理委員会を被告として同条所定の期間内に訴訟を提起すべきものであることは法文上明瞭なことである。然るに原審で被上告人が提出した訴状には被告の表示を

岡山市上伊福岡山県庁内

岡山県選挙管理委員会

被告委員長 武居魁助

とし、委員長武居魁助を被告としているが、これは明かに不適法の訴である。又本訴が法定の期間内に提起せられたかどうかということは判文上毫も触れてない。之等のことは職権調査事項であるのに全然看過しているものと思われる。

原判決は此の点に於て法律違背、審理不尽の不法あり、破毀を免れないものと信ずる。

第二点 原判決は其の主文第一項に「被告が昭和二十二年八月八日なした裁決はこれを取消す」としているが、被告の同日なした裁決は必ずしも本件の訴願に対する裁決のみではない。従て本件の訴願に対する裁決を取消すべき旨の判文としては、少くとも「被告が昭和二十二年八月八日訴外堀井和市の訴願に対して為した裁決はこれを取消す」とされねばならぬと信ずる。此の点に於て原判決は不当の判決であつて破毀せらるべきものである。

第三点 地方自治法第三二条第一項の規定によつて為された投票の有効、無効を判断するに当つては法の精神に則り、選挙の性質に鑑み慎密な注意を要することは多言を俟たぬところであつて、選挙人が何れの候補者に投票したものであるかは諸般の事情に照して究明し認定されねばならない。

本件係争の投票四票について原判決は之れを堀井和市の投票と認め難いものであるとして無効の投票としたが其の理由は著しく不備であり法の精神と選挙の目的に副わず実験則に反するものである。即ち

(1) 第一票(乙第一号証の一)について原判決は「文字型全体を考察すると不鮮明で通常人には文字として判読できない」といつているが二字の内、下の字は「一」と明瞭に読むことが出来ることは論なく、上の字も拙い「ワ」の字の書き損じであることは明かである。候補者二十七名(乙第四号証)中名の末尾に一のつく者は堀井久一、川上若一、物部武一、堀井和市の四名で、久一が「きういち」、若一が「わかいち」、武一が「ぶ一」、和市が「わいち」ということは争のないところであるから、此のことを考慮において見れば此の投票の記載は「ワ一」と判読することが困難でなく、堀井和市の投票であることは常識上明かである。

(2) 第二票(乙第一号証の二)について原判決は「四字目の文字がヽヽヽヽ如何なる文字なるか全く判読し難いヽヽヽ五字目の文字もまた頗る不明瞭で通常人では判読し難いヽヽヽヽ」と判示しているが六字の内上から三字は「ホリイ」と判読されることと、六字目が「一」であることは論なく、四字目が書損抹消したものであることも明かで、問題は五字目の文字であるが既に「ホリイ」の三字が判定された以上堀井姓の候補者は久一(きういち)と和市(わいち)だけで他にはない。従て五字目の文字も当然「ワ」と判読されるべきものであつて堀井和市の投票である、これを其の文字の聊か判読に困難なことに拘つて直ちに不明瞭で判読し難いものとした原判決は不当である。

(3) 第三票(乙第一号証の三)について原判決は「上の字は文字として判読し難い。ヽヽヽ下の字は三本横線が並行して引いてあつて堀井和市の「一」とは判読し難い」といつているが、上の字は拙い字を苦心して「ワ」と書いたものであることは一見して明かであり、下の字も同様で苦心して「一」の字を書いたのが文字不馴れの為か三本の横線の如くなつたものであると見られる、況んや候補者の名の末尾に二、三の字のつく者は一人もない(乙第四号証)のであるからこれが「一」を書いたものであることは容易に認められる、上下二字の関係など仔細に考えれば堀井和市の投票であることは明かで、原判決が之れを判読し難いものとしたのは了解に苦しむ。

(4) 第四票(第一号証の四)について原判決は「ヽヽヽヽ文字頗る不鮮明で通常人では文字として判読し難く」と判示しているが、二字のうち下の字は平静に見て「一」であることは明瞭で、上の字も墨汁が滲んで聊か鮮明を欠くが前陳の如く氏名の末尾に「一」(いち)のつく候補者は前記の如く四人であつてこれ等の者の名を考慮において此の文字を見れば当然「ワ」と書いたものと認められるから堀井和市の投票であることは明かである。原判決が斯様な事情を考究せずして判読し難いものとしたのは理由不備の誹を免れない。

素より事実の認定は原審の專権に属するものであるが選挙人の意思を尊重して出来る限り投票を生かしてやることが必要であることは論を俟たない。然るに原審は末梢神経的な観察に執はれ少しく判読に難澁なものは直ちに之を判読し難いものとして地方自治法第四一条第一項第七号に所謂候補者の何人を記載したかを確認し難いものに該当するとしてしまつたのは実験則に反して証拠の判断を誤り牽いて同法の解釈を誤つたものであつて破毀を免れぬものと信ずる。 以上

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